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入選

自由図書 高校生の部 内閣総理大臣賞

特に内閣総理大臣から許可を得ているわけではありません。

作品情報

応募者名: 朝からポテチ

対象図書: 自由図書 世界でいちばん透きとおった物語

区分: 高校生の部(本文 2000字以内)

感想文

講評(クリックで表示)

講評:ほろあま

読んだことのない本だったので丁寧なあらすじ説明がとても助かりますね。本の手触りすら伝わってくる。読んでいると本を手に取りたくなる宣伝のような感想文で面白いです。読書体験の楽しさを生き生きとした文章で伝えてくれるのが嬉しいですね。ネタバレにも配慮するという優しさあふれる読書感想文は唯一無二ですね。次回の読書感想文も楽しみにします。

内閣総理大臣賞おめでとうございます。


『世界でいちばん透きとおった物語』

衝撃のラストにあなたの見る世界は『透きとおる』
“紙の本“でしか体験できない感動がある!

という触れ込みに惹かれ、23年9月に本屋で手を取った一冊。去年の9月の読了以来、夏の読書感想文用にあらためて読んでみる。

主人公である「僕」の一人称で進むこの小説は、
母を事故で亡くした直後、父である大御所ミステリ作家の宮内彰吾の死を主人公が知るところから始まる。

主人公は、校正作家の母親と、つつましく2人で暮らしていた「僕:藤阪燈真」。読書が趣味であった主人公だが、幼い頃にかかった難病の術後の後遺症のために、紙の本での読書ができなくなった。電子書籍や母親のゲラ校正のチェックはできた。そしてチェック作業は不思議と得意で、誤字脱字はすぐ見つけることが出来た。

自身が父の不倫相手の母との間に出来た隠し子であることとを知っており、母が養育費を受け取らずに生活してたこともあり、父親との繋がりは一切なく、また、父の書いたベストセラー小説も敬遠していた。

交通事故による突然の母親の死後、その死に哀しむことに主観的になれず、不毛な日々を孤独に過ごすだけだった主人公の元に、縁のない父親の訃報がニュースで流れた。
父親の死について特になんとも思わずにいたところに、
遺族の不意の電話から始まり、遺作とあればかなり売れるであろう、父親である宮内が死ぬ間際に書いていたとされる『世界でいちばん透きとおった物語』という遺稿探しをする羽目になる、そして、自分とまるで縁のなかったはずの小説家の父親が遺した、自らへの愛に気づく…というのもの。ここまでが第1章24ページまでの話。

この本の大きな見所は2つ、ひとつは帯にも宣伝される紙の本ならではの仕掛け。そしてもうひとつは、死んだミステリ作家が遺した遺作の謎を追うミステリでありながら、その作家が「誰かを殺した」かもしれない事件を追う、つまり被害者を追う殺人ミステリーものでもあること。

気になる紙の本の仕掛けについて、未読の方はどうか紙の本を手に取ってからこの先を読んでほしい。 他人の読書感想文を読むほどのあなたにとって大きな機会損失となる。もちろんこの物語は映像化されても半分も物語の意味を為さないので、この本がメディアで再び注目されることはない。

(ここからネタバレありね)
その結末というのは、 未完に終わった『世界でいちばん透き通った物語』を自ら完成させるというものだった。
振り返ると、第1章冒頭にて
「編集者は数多くの証拠を集めてひとつの形にまとめあげる探偵。そして作家は犯人」でもあり、
「推理小説において犯人と探偵は共同作業で物語を形作っているといえます」と出てくる。
この冒頭の主人公は編集者の霧子さんと、既に作家とし対話を行っていて、「彼女とはじめて逢ったのは…」から遡るように本編の時系列に流れていく。

冒頭の時系列に戻るのは、最後となる第13章で、主人公が小説を書きあげる時期、鬼の改訂作業を行っている最中で、最後の1ページを書き上げたあたりのことであった。
この本それ自体が作中で語られた『世界でいちばん透き通った物語』であり、この本を書くにあたってその経緯を振り返った話そのものであった。

(ネタバレの仕掛けを踏まえて)
作中でもこれを手書きでやることは不可能だ、とあるが、まさに今向き合っている読書感想文も、原稿用紙作成サイトに流し込んで、それを本同様にレイアウトを整えて“すきとおった“読書感想文にでもしようかと思ったが、やはり紙でないと“すきとお“らないし、何よりたった二千字でもとても無理である。諦めた。
また、あの頃は原稿用紙に感想文を書いてたからあんなに気が進まなかったんだよな、と思う。今の子はスマホやWordでやるのだろうか。

巻末の「あとがきにかえて」を読んで
「僕の生涯で最も激しい驚愕を伴う読書体験を与えてくれた、A先生に捧げる。」とある。
ネットの記事によれば、泡坂妻夫が該当するらしい。
また新潮文庫に収録されている代表作
『しあわせの書 迷探偵ヨギガンジーの心霊術』のことではないかと。
超能力を見込まれて信者の失踪事件を追うヨギガンジーは、布教のための小冊子「しあわせの書」に出会った。
41字詰15行組みの何の変哲もない文庫サイズのその本には、実はある者の怪しげな企みが隠されていたのだ​────。
マジシャンでもある著者が、この文庫本で試みた驚くべき企てを、どうか未読の方には明かさないでください。
とのこと。
早速買ったので、読書を楽しみにしている。次の感想を、お楽しみに。