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入選
課題図書 高校生の部 内閣総理大臣賞
特に内閣総理大臣から許可を得ているわけではありません。
作品情報
応募者名: めふ餅
対象図書: 課題図書 なめとこ山の熊(宮沢賢治)
区分: 高校生の部(本文 2000字以内)
感想文
講評(クリックで表示)
講評:ほろあま
場面を分けて物語をわかりやすく解体し、とても丁寧に読み取れていると思います。そして、しっかりと心理描写に着目して、小十郎に共感することができていて素晴らしいと思います。意外と読んでみると難しいと書かれているので、きっとこの読書体験で今までにまして童話の奥深さに気づけたと思います。最後に宿題の提出が遅れたことが書かれていることで、作品と相まって現実のままならなさを感じますね。でも、締切は守りましょう。
内閣総理大臣賞おめでとうございます。
『なめとこ山の熊』を読んで
『なめとこ山の熊』は宮沢賢治の代表的な作品の一つだ。宮沢賢治といえば誰もが知っている詩人・童話作家で、調べてみると多くの作品を世に残したことが分かる。しかしながら私が今までにまともに読んだことのある作品は『注文の多い料理店』『オツベルと象』『雨ニモマケズ』ぐらいであり、この『なめとこ山の熊』についてはまったく読んだことがなかった。
この作品を読む前は、童話ということもあり明るいお話だと勝手に想像していた。しかし読み進めてみると、言葉遣いや表現が難しい部分が多く、また、死を題材にしていることから重い話であるというように感じた。
内容としては熊捕りの名人である淵沢小十郎となめとこ山に棲む熊たちのお話が主軸となっており、小十郎と熊たちの交流が第三者目線で語られている。話題や場面としては大きく五つに分けられるだろう。
一つ目は、なめとこ山に棲む熊とその熊を獲る小十郎についての話だ。なめとこ山の熊の胆はよく効く薬として名高く、小十郎はその熊を獲る名人であった。熊は小十郎や犬が山を歩き回っているのをおもしろそうに見ている。大抵の熊は小十郎と事を構えることを迷惑そうにしているが、気の烈しい熊は小十郎に襲い掛かる。そしてすぐさま小十郎に撃たれて皮と胆を剥ぎ取られるのだ。
二つ目は、小十郎が親熊と子熊に出会った場面だ。ある年の初春に小十郎は親熊と子熊が会話している光景を目撃する。会話を聞いた小十郎は、親子に気が付かれないようそっとその場を離れた。
三つ目は、小十郎と荒物屋の旦那の話だ。山では豪儀な小十郎も、荒物屋の旦那の前では腰が低い。山で獲ってきた熊の皮も二束三文で買いたたかれてしまう。なめとこ山では熊に威勢よく相手をしていた小十郎だったが、人里では弱い立場にいることがうかがえる。
四つ目は、ある一匹の熊との出会いについての話だ。小十郎はある年の夏に一匹の熊と出会う。小十郎に撃たれそうになった熊は、やり残したことがある、二年だけ待ってくれと小十郎に頼んだ。立ち尽くし呆然と熊を見送った小十郎であったが、ちょうど二年後にあの熊が約束どおりに小十郎の家の前で倒れているのを発見する。
五つ目は、小十郎の死だ。自身に起きた異変から、死期が近いことを悟ったであろう小十郎。襲い掛かってきた大きな熊にいつものように抵抗するが敵わず、小十郎は潔く死を受け入れる。
この作品を一読したときはなんだか難しい話だなと感じていたが、こうして場面に分けて小十郎の心情をじっくり推し量ってみると、少しずつ見えてくるものがあることに気がついた。
小十郎は逃れられない、どうしようもない現実の中でずっと生きてきた。熊に生まれ殺されることも、こんな商売を続けていくことも因果なのだから仕方がないと、ある種言い訳のように重ねてきた。小十郎も熊もお互いを憎み合っているわけではない。ただ、そういう因果だっただけなのだ。
しかし小十郎はある年の初春に二匹の親子熊に出会う。小十郎はその様子をどこか、触れてはいけない神秘的なもののように感じたのだろう。もしかしたら小十郎はその二匹に、赤痢にかかって死んでいった息子と妻を重ねていたのかもしれない。
さらに小十郎はある年の夏に一匹の熊と出会う。小十郎はあの日、熊も人間と同じように死を惜しむことにはたと気づいたのだろう。生きるために商売のために仕方なく熊を殺してきた小十郎。熊に生まれたことが因果、こんな商売をしていることが因果であるならば、死んでいくこともまた因果であると気が付く。自分もその時がきたら同じように死を覚悟できるか。小十郎はそんなふうに考えていたのではないだろうか。
いつしか熊を人間と同じように感じていた小十郎。憎んでいるわけでもない熊を生きるために商売のために殺してきた、そのことに辟易していたのではないか。小十郎の死骸はまるで「生きてるときのように冴え冴えして何か笑っているようにさえ見えた」。小十郎はこうしてようやく、惨めな因果から解放されたのだろう。
私はこの夏、読書感想文を書くという宿題を自身に課した。のほほんとしていたら提出日をうっかり過ぎてしまっていた。しかしこうしてこの作品をじっくり読み、自身が感じたことを文章にすることできた。最初は難しいと感じていた作品を自分なりに理解することができた。この作品を読んで、この宿題を最後までやり切ることができて良かったと今はとても強く感じている。そして最後に、夏休みの宿題はもっと計画的にやろうと強く感じた。来年はどんな作品に出会えるのか楽しみだ。