文字サイズ
入選
自由図書 高校生の部 内閣総理大臣賞
特に内閣総理大臣から許可を得ているわけではありません。
作品情報
応募者名: 若林沙希
対象図書: 自由図書 [ あの花が咲く丘で君とまた出会えたら ]
区分: 高校生の部(2000字以内)
感想文
講評(クリックで表示)
講評:ほろあま
主人公の感情に寄り添った感想文で、心揺さぶられました。丁寧にあらすじを交えており、読み手の興味を引く書きぶりなのでとても読んでみたくなりました。「そんなのおかしい!」「心の中で叫びたくなった」といった、読んでいる最中に感じた率直な感情が書かれていて、まるで感動を追体験できたような感想文でした。そして、その読書体験から主人公と同じように現実を顧みて自分自身の生き方と照らし合わせたのもの良いと思いました。1つの作品が自身の人生観を変えたことが伝わってきてよかったです。
内閣総理大臣賞おめでとうございます。
最初、私はこの小説を「よくある青春恋愛もの」だと思っていた。表紙の雰囲気や、タイトルからも、甘くて切ない話だと予想していた。しかし、読み進めていくうちに、その印象は完全に覆された。これは、ただの恋愛小説ではない。「戦争とは何か」「命の重さとは何か」、そして「今を生きる私たちに何ができるか」を問いかけてくる、深いテーマを持つ作品だった。
物語の主人公・百合は、現代の女子中学生。母親との関係に悩み、何もかもが嫌になったある日、家を飛び出した彼女は、不思議な出来事に巻き込まれ、気づけば戦時中の日本にタイムスリップしていた。そこで出会ったのが、特攻隊員の彰だった。
彰は、明るくて仲間思いで、百合にとっては初めて「本気で人を好きになる」相手だった。しかし、彼には「死ぬ運命」が決まっている。特攻隊として、敵の戦艦に自らの命をもって突っ込むという任務が、彼に課せられていたからだ。
この設定を知った時、私は心の中で思わず叫びたくなった。「そんなのおかしい!まだ生きたいと思っている若者が、なぜ自分の命を犠牲にしなければならないの?」と。百合も同じ気持ちだった。彼女は必死に彰を止めようとする。しかし、彰は「自分は誰かの未来を守るために死ぬ」と静かに語る。戦争という極限の状況において、命を差し出すことが「愛」や「正義」だと信じていた彼の姿は、恐ろしいほどまっすぐだった。
読んでいて、私は何度も涙がこぼれた。とくに、彰が百合に最後の言葉を残す場面では、「こんなにも人を思いやることができるのか」と胸が締め付けられた。私だったら、自分の死が近づいているとき、そんなふうに誰かの未来を願えるだろうか。怖くて、寂しくて、取り乱してしまうに違いない。だからこそ、彰の強さ、優しさ、そして短すぎる人生が、私の心に深く残った。
この物語が伝えたかったのは、「戦争の悲惨さ」だけではないと思う。登場人物それぞれが、自分の「生き方」を模索する中で見つけた希望、信念、そして愛が描かれていた。そして、それは今を生きる私たちにも通じるものがある。今の日本は平和で、爆弾が降ってくる心配もなく、明日を当然のように迎えることができる。でも、その「当たり前」は、過去に生きた誰かたちの犠牲の上に成り立っている。私たちはそのことを、普段あまり意識していない。
百合は現代に戻ってきたあと、自分の生き方を変える。家族との関係に向き合い、自分にできることを考えるようになる。それは、彰から託された想いを背負って生きていく、という決意の現れだと思う。私もこの本を読み終えた今、「自分に何ができるか」を考えずにはいられない。ただ「平和が大事」と口で言うだけではなく、今ある日常を大切にして、一つ一つの選択を真剣にすること。それが、過去を無駄にしない生き方なのだと感じた。
この本は、中学生や高校生はもちろん、大人にも読んでほしい作品だと思う。恋愛、家族、命、平和――さまざまな視点から、多くのことを学べる。そして何よりも、今という時代をどう生きるか、そのヒントを与えてくれる。私にとってこの読書体験は、ただの「感動的な物語」では終わらなかった。これから先の人生において、何かに迷ったとき、きっと彰の言葉や百合の姿を思い出すだろう。
「あの花が咲く丘で、君とまた出会えたら。」というタイトルの意味も、最後には深く胸に響いた。もう一度出会えるなら、きっと違う未来がある。だからこそ、今を真剣に生きることが大切だと、この物語は静かに、でも確かに教えてくれた。