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入選

課題図書 小学校低学年の部 内閣総理大臣賞

特に内閣総理大臣から許可を得ているわけではありません。

作品情報

応募者名: 海水

対象図書: 課題図書 [ 月夜と眼鏡 ]

区分: 小学校低学年の部(800字以内)

感想文

講評(クリックで表示)

講評:ほろあま

自身の創作体験を交えて、作品の素朴で起伏のなさに着目し魅力として語るというのは新鮮な視点で素晴らしいと思いました。その起伏のない物語を紡いでいる繊細な描写からしっかりと情景を思い浮かべられていて、作品と真摯に向き合って多くのことを感じ取っているなあと思いました。そして、最後の「一枚のパステル画のような小説」という例えがまさに小川未明の魅力を現した秀逸な一文だなと思いました。

内閣総理大臣賞おめでとうございます。

「同人女」と『月夜と眼鏡』

「やまなし、おちなし、いみなし」という言葉がある。略して「やおい」、すなわちボーイズラブ(BL)作品のことだ。
『デジタル大辞泉』によると、「やおい」の語源は、BLジャンル草創期の作品が性描写のみに終始し「山(山場)なし、落ち(結末)なし、意味なし」と揶揄されたことにあるらしい。
 私は趣味で二次創作BL小説を書いているのだが、二次創作BL小説界隈(特定作品に限らず二次創作BL小説を書くタイプの二次創作者、ものすごく雑にまとめるなら「同人女」の界隈)では、いまだに「やおい」という言葉の呪縛のようなものを感じることがしばしばある。
 あくまで私の観測範囲で私が見聞きして感じた肌感覚でしかないが、「何も起こらない起伏のない話」より「何かが起こるメリハリのある話」の方が良い二次創作小説とされる価値観は、「同人女」の界隈ではいまだに根強いと感じる。
 そして、私はそんな風潮に不満があった。私は「何も起こらない話」を読むのが大好きだし書くのも大好きだ。「何も起こらない話」が軽んじられるなんてきっと間違っている。そんなモヤモヤとした鬱憤のような感情を、私は常日頃から抱えていた。
 さて、今回の課題図書『月夜と眼鏡』は、失礼を承知で言うとかなり「何も起こらない話」だと感じた。そして率直に言うと、その「何も起こらなさ」に私は溜飲が下がる思いだった。
『月夜と眼鏡』には冒険も戦いも恋の駆け引きも、ぞっとするようなオチもない。ただ、繊細でやさしい筆致によって幻想的な月夜の情景がロマンチックに浮かび上がるのみである。
 ハラハラドキドキさせる大作映画や恋愛ドラマのような小説があるのなら、きっと一枚のパステル画のような小説があってもいい。私も『月夜と眼鏡』のような、じんわりと心に沁み込んで人を癒すことのできる二次創作BL小説を書きたい。そんな風に勇気づけられる読書体験だった。